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福岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)36号 判決 1970年4月21日

福岡県朝倉郡杷木町大字志波二〇番地

原告

有限会社泰泉閣

右代表者代表取締役

林一二三

右訴訟代理人弁護士

森田莞一

福岡県朝倉郡甘木町

被告

甘木税務署長

八尋正光

福岡市博多駅東二丁目一一番一号

被告

福岡税務署長

斉藤整督

右被告両名指定代理人検事

川井重男

同法務事務官

山口英尚

同大蔵事務官

安武嘉三次

小林淳

大神哲成

右当事者間の昭和四四年(行ウ)第三六号法人税課税処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴はいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求める裁判

一、(原告)

1  被告甘木税務署長が昭和四三年六月二九日付なした、原告の昭和四一年一二月一日から翌四二年一一月三〇日までの事業年度分法人税についての更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  被告福岡国税局長が昭和四四年六月一〇日付なした前項の処分に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二、(被告ら)

主文同旨

第二、請求原因

一、原告会社は昭和四一年一二月一日から翌四二年一一月三〇日までの事業年度分法人税の確定申告書を青色申告により被告甘木税務署長に提出し、その申告額は所得金額一七、六七六、〇八三円、法人税額五、九六七、五〇〇円であつた。

二、被告甘木税務署長は昭和四三年六月二九日付通知書により所得金額一八、四六八、〇四四円、法人税額六、〇七七、二〇〇円と更正し、過少申告加算税五、四〇〇円の賦課決定をなした。

三、原告は、右更正、決定処分について被告甘木税務署長に異議申立をなしたが、これを却下されたのでさらに、被告福岡国税局長に審査請求書を提出したところ、同被告は昭和四四年五月二一日付裁決書により右審査請求を棄却し、その書面は昭和四四年六月一一日被告に到達した。

四、被告らの右更正、決定および裁決の理由はいずれも原告が損金に計上した役員報酬六八〇、〇〇〇円は臨時的給与であるから法人税法三五条の賞与であると認定し、これを益金に加算するというにある。しかし、右役員報酬はすでに社員総会により決定された役員報酬限度額以内の金額であり、定額をもつて毎月支給する定期的給与の増額にすぎないので、これを賞与と認定して益金に加算するのは違法である。

五、よつて、原告は被告甘木税務署長がなした本件更正、決定処分および被告福岡国税局長のなした裁決の取消を求める。

第三、本案前の抗弁

本件訴の出訴期間は被告国税局長のなした裁決の取消しを求める訴については勿論、被告税務署長のなした課税処分の取消しを求める訴えについても、原告が右裁決があつたことを知つた日の翌日から起算すべきところ、被告国税局長が昭和四四年六月一〇日郵便によつて送達した裁決書は翌一一日原告に到達しているので、原告は右同日裁決のあつたことを知つたと解すべきであり、従つて、本件訴の出訴期間は同年六月一二日から起算して三ケ月後の同年九月一一日までである。しかるに、原告の本訴提起は右期間経過後の同年九月一六日であるから不適法である。

第四、本案前の抗弁に対する原告の主張

本件裁決書は昭和四四年六月一一日に原告方に到達したことは認めるが、原告代表者が現実にこれを受取り、裁決があつたことを知つたのは同年六月一六日である。

第五、証拠

一、(原告)

1  甲第一、第二号証を提出した。

2  証人大島栄子の証言を援用した。

3  乙号各証の成立はすべて認める。

二、(被告)

1  乙第一号証の一、二、同第二号証を提出した。

2  甲各号証の成立はすべて不知。

理由

先ず、本件訴が行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間内に提起されたものであるかどうかの点について判断するに、国税通則法八七条によると課税処分の取消を求める訴についてはいわゆる裁決前置の建前になつているので、本件訴の出訴期間はいずれも原告が「裁決があつたことを知つた日」の翌日から起算すべきである。ところで、被告主張の裁決書が昭和四四年六月一一日原告会社事務所に到達したことは当事者間に争いがないので、原告会社代表者においてこれを了知できない特段の事情がある場合は格別、そうでない限り右到達の時をもつて原告会社代表者がその内容を了知したものと推認すべきである。そして、甲第一、第二号証ならびに証人大島栄子の証言中原告会社の総務担当責任者たる大島栄子が昭和四四年六月一一日前記裁決書を受領しながらこれを開封することなく現実に原告会社代表者たる林一二三に手渡したのが同月一六日であつたとの部分があるけれども、右各証拠に成立に争いのない乙第二号証を総合すると、原告会社は旅館業を目的とした有限会社であつて、その代表者たる林一二三は杷木町長をも兼ねているため原告会社へは通常午後五時を過ぎてから顔を出す程度で、町務多忙の折りには原告会社事務所へ来られないこともあつたので、原告会社の庶務経理等事務を処理するのに大島栄子を責任者として配し、通常の事務処理は同女に一任していたけれども、重要な事項についてはその都度原告会社代表者に報告させて指示を受けたうえ処理させていたこと、原原告会社代表者の自宅は、同社事務所の敷地内に在り同人が、会社事務所に出頭しないときは、右大島より自宅に電話で連絡したり、自宅に重要書類を持参するならわしになつていたこと、同女は本件審査請求に至る経緯も知悉し、国税局係官の事情聴取にも応待していたことが認められるので、これららの事情を併せて考察すると前掲証拠部分を採用するわけにはいかない。他に右推認を覆えすような証拠はない。

そうすると、昭和四四年六月一一日前記裁決書が原告会社事務所に到達したこと当事者間に争なく、反証のない本件においては即日同社代表者がその内容を了知したものと認むべきであるから本件訴はその翌日である昭和四四年六月一二日から起算して三ケ月以内の同年九月一一日までに提起しなければならなかつたというべきであるが、本件訴の提起しなければならなかつたというべきであるが、本件訴の提起されたのが同年九月一六日であることは記録上明らかであるから、本件訴はすでに出訴期間間を徒過した後に提起されたものとして不適法といわなければならない。

よつて、本件訴はいずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木本楢雄 裁判官 富田郁郎 裁判官福永正子は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 木本楢雄)

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